新耳袋第十夜、感想。

実話怪談の雄、新耳袋もこれで読み収めとなった。
正直に言わせていただくと、今回の第十夜は、
新耳袋シリーズ、有終の美』
であったと思う。
不思議と怪異と恐怖のバランス取りも見事だし、全体の編集も文句はない。
至る所に創意工夫がしてあって、読み手を飽きさせないのは流石だろう。
文句があるとすれば、少し理解し難い文章が有ったことくらいだが、それもあ
まり気にならないほどの充実っぷりである。
怪談マニア・フリークや、怪談に興味のある全ての人に薦めておきたい。


ここからは余談というか個人的な妄想。


今回は新耳袋シリーズ全てを読んでいる事によって、面白みが倍増する造りにな
っていると思う。自ら行ったオマージュであるともいえるが、実は更なる怪異と
情報を追加しているのが凄い。第三者が同時に体験するケースへ変貌していたり
、怪異そのものの本質を炙りだしていたりするのだから堪らない。
それらは新たな怪異の記録になっている上、今まで読んできたファンへのサービス
精神が溢れているのである。
逆に、第十夜のみ読んだ人にとっては「これから残りのシリーズを楽しむ」事が
可能でもあるので、それはそれで美味しいのではないだろうか?
この辺りに「円環」「伝承」の一端が現れているといっても過言ではない。
ということを踏まえると、「新耳袋はシリーズ全てを持って、新耳袋である」と
いえるのではないか?
第一夜から第十夜まで(扶桑社版含めて)全てが繋がる事、重なる事で真の意味
を持つのではないだろうか?
第十夜の存在がそれを如実に現しているのである……と個人的は思うのだが。
あまり詳しく語ると初めて読む人にとってつまらなくだろうから、これ以上はオ
フレコ……ということにしておこう。
実際手にとって、じっくりと読んでみて欲しい。
実話怪談の理想の一つがここにある。


この十夜は木原氏と中山氏の「怪談に対する愛」に溢れた一冊になった。
この十夜をまとめる為に、このシリーズが存在したといっても過言ではない。
まさに『現代百物語の結晶』と言えるだろう。
新耳袋、全十夜は新たな実話怪談の雛形を作り出した。
これから、木原・中山両氏の新たな挑戦に期待したい。